ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は、1867年に完成した3幕からなる楽劇です。台本も作曲者自身によるもので、1868年6月にミュンヘンで初演されました。この楽劇は、16世紀中ごろのドイツ、バイエルン州の都市、ニュルンベルクに実在した詩人ハンス・ザックスを主人公とした喜劇調の楽劇です。当時のニュルンベルクでは手工業が発達し、各手工業の代表者たちが芸術(歌唱)に携わり、マイスタージンガー(親方歌手)と呼ばれていました。
ワーグナーは、全部通して演奏すると4時間以上にも及ぶこの劇の内容をうまく「前奏曲」に盛り込みました。この前奏曲のほとんどのモチーフは、ほぼそのままの形で歌劇の最終の場(第3幕第2場)の歌合戦の場面に出てきます。前奏曲冒頭の「マイスタージンガー」のモチーフ、金管による行進曲風の「マイスタージンガーの行進」のモチーフ、「マイスタージンガーの芸術」のモチーフ、半音階的進行の主人公ワルターが歌う愛のモチーフなどです。あとはこれらが相互に絡み合って進行していきます。
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の曲中では「第1幕への前奏曲」、「愛の洗礼式」、「ヨハネ祭の場面」が有名ですが、この「第1幕への前奏曲」は、ワーグナーの楽曲の中でもよく親しまれ、演奏会で採り上げられる機会が多いだけでなく、祝祭的なイメージから、式典(大学の入学式など)での演奏の機会も多い作品です。
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