交響曲第4番「イタリア」はメンデルスゾーンの5つの交響曲のうち、第3番「スコットランド」と並んでよく知られている曲です。この曲は「イタリア」と副題が示すように、イタリアの風物から受けた印象をもとにして作られた曲ですが、表題音楽的な要素は少なく、明らかにイタリアの素材を用いたのはローマの舞曲、サルタレロが用いられている第4楽章のみで、他の楽章は間接的に連想を呼ぶ程度です。古典的な形式を一方で保ちながら、メンデルスゾーン独特の優雅で抒情的な内容をあらわした作品です。
メンデルスゾーンは1830年10月から翌1831年4月にかけて、イタリアに旅行し、その間にローマでは謝肉祭や教皇グレゴリウス16世の即位の式典などを目にしています。この交響曲はこのローマ滞在中に書き始められますが、完成をみないまま中断されています。
その後、1832年の11月、メンデルスゾーンはロンドン・フィルハーモニック協会から交響曲、演奏会用序曲、声楽曲各1曲の作曲の依頼を受けます。これを快諾した彼は中断していた、この交響曲を完成させることにし、翌年の3月に完成します。そして彼はこの「イタリア交響曲」と序曲「フィンガルの洞窟」ともう一つの声楽曲の代わりに、「トランペット序曲」を協会に提出します。メンデルスゾーン24歳のときです。初演は1833年5月13日、ロンドンにおいてメンデルスゾーン自身の指揮によって行われています。
第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ イ長調 6/8拍子 ソナタ形式。木管楽器の軽快な刻みにのって、ヴァイオリンの生き生きとした第1主題で始まります。はじめてのイタリアの第一印象がこの主題を呼び起こしたといってもよいでしょう。この動機は1楽章を通して続きます。第2主題は木管に出るやや落ち着いた表情のもの、展開部では新たなリズムが示され、これに第1主題の動機が対位法的に絡んでいきます。楽章全体を通じて沸き立つような躍動感が印象的です。
第2楽章 アンダンテ・コン・モート ニ短調 4/4拍子 自由な三部形式。
冒頭に木管と弦による重々しい哀愁に満ちたフォルテの句を先立てて、オーボエ、ファゴット、ヴィオラによって巡礼の歩みを思わせる、歩くような速さの詩情のあふれるメロディが出てきます。これは中間部では長調になり、クラリネットなどを中心に穏やかなメロディを演奏します。
第3楽章 コン・モート・モデラート イ長調 3/4拍子 三部形式。この曲はスケルツォではなくメヌエットです。単なる美しさを超えた優雅さと単純さをそなえています。中間部では特徴のあるリズムがホルンの美しい和音で演奏され、楽章の最後に再度このホルンがエコーのように登場し静かに閉じます。
第4楽章 サルタレロ;プレスト イ短調 4/4拍子。 ロンド形式
メンデルスゾーンは、この楽章をローマの謝肉祭に町をあげて踊る人々の姿に着想したものと思われます。サルタレロのリズムで2つの主題が出されます。サルタレロは速いホップ・ステップで踊られるローマ地方のダンスで、途中でナポリのタランテラの舞踏も現れます。こうした愉快な、ユーモラスな曲を一貫して短調で終始する形で書いているのは、他には見られない特徴で、この曲の不思議な魅力になっています。
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