交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」はモーツァルトの最後の交響曲です。この交響曲はモーツァルト32歳の1788年8月10日にウィーンで完成されました。同年6月26日に作曲された交響曲第39番、7月25日に作曲された交響曲第40番とともに「3大交響曲」とも呼ばれています。
副題の「ジュピター」はモーツァルト自身が付けたものではありません。ローマ神話の神ジュピターにちなんだこのニックネームは、当時のヴァイオリン奏者でプロデューサーでもあったザロモンにより名付けられました。ジュピターはギリシア神話における最高神であり、この作品のスケールの大きさ、その雰囲気にはギリシア的なイメージを喚起するものがあります。モーツァルトを崇敬していたリヒャルト・シュトラウスは、「ジュピター交響曲は私が聴いた音楽の中で最も偉大なものである。終曲のフーガを聞いたとき、私は天にいるかの思いがした」と賛辞しています。
「ジュピター」を作曲した頃のモーツァルトはオペラ「フィガロの結婚」、「ドン・ジョヴァンニ」の成功により、作曲家としての活動がピークにあった時期でした。ところが経済的には大変苦しい状況にあり、また1787年5月には父親レオポルトの死去、同年末に生まれた長女テレジアは翌年1788年6月に夭逝しており、身内の不幸も続いていました。モーツァルトはこの困窮からの抜け出すために予約演奏会を計画し、そのため、わずか2ヶ月間という驚くべき短期間で、性格の違う3つの交響曲を一気に書き上げたことは、モーツァルトの天才ぶりをよく表わしているといえます。
第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ長調 4/4拍子 ソナタ形式
序奏なしで、力強い主和音と優しい旋律が組み合わされた第1主題で始まります。続く第2主題は弦が美しいト長調の柔らかいメロディを奏でます。展開部はオペラ・ブッファ的な軽やかなメロディをフーガ風に展開し、主部の再現となります。
第2楽章 アンダンテ・カンタービレ ヘ長調 3/4拍子 ソナタ形式
弱音器付きのヴァイオリンによりイタリア風の優美な第1主題、第2主題が繰りひろげられます。展開部では、第1主題と第2主題の間に現れた短調の旋律も使われます。モーツァルトの作った緩徐楽章の中でも、最も美しく深い味わいを持った楽章といえます。
第3楽章 メヌエット(アレグレット) ハ長調 3/4拍子
ゆるやかに下降する主題で始まる堂々としたメヌエットです。トリオではフルートに導かれてユーモラスで愛らしい音型が出てきます。このトリオの後半では第4楽章の定旋律(ジュピター音型)も姿をみせます。
第4楽章 モルト・アレグロ ハ長調 2/2拍子 ソナタ形式
この最初に出てくるテーマは「ジュピター音型」と名前がついているくらい有名な音型(CDFE、ドレファミの4音符)で、モーツァルトがたいへん好んだモチーフです。モーツァルトの交響曲第1番や交響曲33番をはじめ、他の作曲家の作品にも出てきます。これはグレゴリオ聖歌に起源をもつと言われています。
この第4楽章は、このジュピター音型とさまざまな素材が同時に響き合って、提示部、展開部、再現部を通じて、フーガという対位法の究極技巧が駆使されており、まさにモーツァルトの交響曲の中でも、白眉というべき楽章です。
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