「メン・コン」の愛称で親しまれているメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ほど、万人から愛されているヴァイオリン協奏曲も少ないのではないでしょうか。柔らかいロマン的情緒とバランスのとれた形式、そして何よりその美しい旋律でメンデルスゾーンのみならず、ドイツ・ロマン派音楽を代表する名作です。特に哀愁漂う第1楽章の主題は、クラシック音楽を象徴するほど親しまれているといっても過言ではありません。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲作品61、ブラームスのヴァイオリン協奏曲作品77と並んで「3大ヴァイオリン協奏曲」と呼ばれています。
メンデルスゾーンは別にもう1曲ヴァイオリン協奏曲ニ短調を書いています。こちらの作品は1951年にヴァイオリニストのユーディ・メニューインによって発見されるまで忘れられていたメンデルスゾーンの若い時期の作品です。ホ短調作品64の方があまりにも有名になったため、その影が薄く、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲というと、このホ短調作品64をさしています。
この曲は着想から完成までに6年が費やされています。1838年メンデルスゾーンがライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の常任指揮者をつとめていた時、そのコンサート・マスターであったフェルディナント・ダーヴィトのために作曲されました。演奏上の技術的な助言をダーヴィトから受けながら作曲は進められ、この作品が完成したのは、最初の着想から6年後の1844年、メンデルスゾーン35歳の時でした。
初演は1845年3月13日、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏会にて、フェルディナント・ダーヴィトのソロ・ヴァイオリン、指揮は作曲者自身がする予定でしたが、体調を崩してしまったため、副指揮者のニルス・ゲーゼにより行われています。
曲は三つの楽章からなり、これらは続けて演奏するよう指示されています。これは当時としては新しい方法でした。各楽章はおのおの独立してまとまりをもっていますが、快い流動感を断ち切らないためにこのような形になったと推測されます。また、奏者の自由に任されることの多いカデンツァ部分も、全て作曲されているのもこの時代としては画期的なことでした。
第1楽章 アレグロ・モルト・アパッシオナート ホ短調 2分の2拍子 ソナタ形式。
弦楽器の2小節の序奏に続き、独奏ヴァイオリンが有名な哀愁を帯びた感傷的な美しい第1主題を奏でます。独奏ヴァイオリンが技巧的なパッセージを奏でたあと、力強い経過主題が表れ、オーケストラと対話しながら華麗に展開して行きます。第2主題は、フルート、クラリネットの四重奏によって優雅に歌われます。その後、展開部とそれに続く再現部の間に、メンデルスゾーン自身の書いたカデンツァが奏されます。
第2楽章 アンダンテ ハ長調 8分の6拍子 三部形式。
オーケストラの繊細な伴奏の上に、独奏ヴァイオリンが抒情的な甘美な主題を歌いだします。中間部は対照的に短調に変わり、曲はそのまま第3楽章に入っていきます。
第3楽章 アレグレット・ノン・トロッポ ホ短調 ~ アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ ホ長調 ソナタ形式。
楽章の始めに第2楽章の中間部の主題にもとづく序奏が置かれています。主部は管楽器とティンパニが静寂を破り、独奏ヴァイオリンが躍動的な第1主題を出します。この主題が技巧的に発展し、華やかな花が開くような第2主題が現れ、この2つの主題が競い合うように展開していきます。再現部では独奏ヴァイオリンの対旋律の美しさが際立ちます。最後は独奏ヴァイオリンとオーケストラとが一体となって華やかなクライマックスを築きます。
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