バラードとは、元来は声楽曲に用いられた形式の1つで、一般には「譚詩曲」と訳されています。ショパンは生涯で4曲のバラードを作曲しましたが、それらは1831年、ショパン21歳から1842年、32歳までの最も華やかなりし頃に作曲されています。これら4曲は特に関連性はありませんが、基本的に3拍子系で、4曲ともに極めてドラマティックでショパンの傑作に数えられる作品です。
このバラード第1番は、パリ滞在中の1831年から1835年に作曲され、シュトックハウゼン男爵に献呈されています。シューマンはこの曲を「ショパンの曲の中で最も好きだ」と語っています。そして「この曲は大変優れているが、彼の作品の中では全く天才的、独創的なものではない」とも評しています。このバラードはポーランドの詩人アダム・ミツキエヴィッチの詩に啓発されて作曲されたと言われていますが、標題音楽のように写実的に描写されているわけではありません。言いたいことを歌詞のないピアノに託して表現する。バラードは音楽に対して厳しい姿勢を貫いたショパンの想いが込められた作品です。
バラード第1番はバラード第4番と並んで人気の高い作品です。いきなり低音がドーンと鳴り響き、オクターブで謎めいた旋律を奏でます。この大変印象的な第1主題でこの曲の虜になってしまう人も多いと思います。曲は甘美な第2主題、華麗な後半部、劇的なコーダといった、まさにショパンの粋なピアニズムがふんだんに盛り込まれています。
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