ピアノソナタ第8番イ短調 K.310はモーツァルトのピアノソナタでは数少ない短調で書かれています。短調のピアノソナタは第14番ハ短調K.457とこの曲のみです。
モーツァルトは1777年の秋、21歳のモーツァルトは新たな職を求めて、母マリア・アンナと共に、故郷ザルツブルグを離れマンハイムを経てパリへ向かいます。しかし、その頃パリはフランス革命直前の喧騒の中にあり、就職活動は全くの徒労に終わってしまいます。その上、母は重い病にかかり、7月初めにはこの異郷の地で亡くなってしまいます。この悲劇的な曲調を持つこのピアノソナタ第8番はこのパリで書かれ、母親の死という悲しい出来事を示すかのような暗く緊張した作品となっています。同じく短調のヴァイオリンソナタホ短調K.304もほぼ同時期に作曲されています。
第1楽章 アレグロ・マエストーソ イ短調、4分の4拍子、ソナタ形式。
烈しく暗い緊張感のある主題で始まります。この主題が転調や強弱の変化を伴って展開していきます。
第2楽章 アンダンテ・カンタービレ・コン・エスプレシオーネ ヘ長調、3分の4拍子、ソナタ形式。
ゆったりとした表情豊かな優しく愛らしい音楽です。展開部では対照的に激情的な部分も。
第3楽章 プレスト イ短調、2分の4拍子、ロンド形式。
無慈悲なまでに速く曲が進行する。中間にはイ長調の天国的な部分も。
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