完治には酒を断つこと
アルコール依存症の原則は、断酒することです。酒量を制限するだけではトラブルや症状の再発がなかなかなくならず治療が続きません。
アルコール依存症者は、病気を発症するまで飲酒を楽しんできた人たちです。飲酒はすでに人生の一部になっています。医師にアルコール依存症だと診断され、深刻な病気だと指摘されても、飲酒を完全にやめることは、なかなかできません。本人は酒量を減らすことで対処できると感じていたり、そう信じたがっています。
しかし、多くの場合、症状は酒量の調節では対処できないところまで進んでいます。酒量を減らそうとしても、一口飲めば止まらなくなり、飲みすぎてトラブルを起こします。飲み方のコントロールを失っているため、節酒は非常に難しいのです。
入院治療の場合
医療機関を受診した際、原則的には入院治療が選択されます。まず症状をおさえることを優先させ、体調が落ち着いてから酒の飲み方を改善していきます。入院してから心身の状態が落ち着くまで2〜3ヵ月ほどかかります。
最初に離脱症状や身体症状の治療を行います。その後、体の状態が回復してきたら断酒のためのリハビリテーションを受けます。ある程度、時間がかかるため、仕事をしている場合には休職を検討することになります。
また、うつ病や摂食障害などの重複障害があり、通院では回復が難しい場合には入院治療が進められます。入院して、酒のない環境で、自分の飲み方や、健康、社会生活、周囲に人への影響をじっくり考え、断酒を決意するのです。
通院治療の場合
アルコール依存症の治療の第一の選択肢は入院です。しかし、心身の状態が比較的安定していて、すぐに生活の改善がはじめられる軽症の人は、通院治療を行う場合があります。通院治療は医師と話すことが治療の中心となります。
通院の場合は2週間の1回程度のペースで医療機関に行くのが一般的です。依存症者の状態によって回数は増減します。最初は毎日通院する場合もあります。
一定のペースを保って数ヶ月間通院すると、状態が落ち着いてきます。酒を飲まない生活が定着してきたら、通院回数を減らしていきます。自助グループに通うなどして、再発を防ぎながら、断酒生活を続けていきます。
治療の方法
アルコール依存症の治療は大きく分けて3期に分かれています。
解毒期(約3週間)
最初は離脱症状とアルコールによる体の障害を治療します。入院から約3週間ほどで症状がおさまってきます。体調が落ち着き、精神療法が受けられるようになります。
アルコール依存症の人の多くは、離脱症状を発症しています。症状の重さは個々に異なり、それぞれに合わせた治療が必要です。解毒期は酒から離脱し体を解毒する時期です。
酒を完全に断つので、それまでずっと飲酒した状態に慣れてきた体に反動が起きます。それが離脱症状です。アルコール依存症の人の多くが経験する過程です。
解毒期には、抗不安薬を使うなどして、離脱症状を抑えることが治療の中心となります。早ければ1週間程度で症状はおさまります。
そのあとは、酒を飲まなければ症状は出ません。酒を断ち。体を平常時の状態に戻すことが、この時期の主な目標です。体が元に戻れば、次の治療に進むことができます。
解毒期に使われる薬
抗不安薬・・・中枢神経に作用して、不安を軽減する薬です。ベンゾジアゼピン系薬物など離脱症状を完全におさえるために使われます。
抗精神病薬・・・中枢神経に作用して幻覚や妄想などをおさえる薬です。ハロペリドールやリスペリドンなど、幻覚症状が強い場合に用います。
リハビリ期(約7週間)
心身の健康が、ある程度戻ったところでリハビリテーションをはじめます。精神療法を受けたり、集団活動をしたりして社会生活にもどるための訓練をつんでいきます。
心理教育
心身の状態が安定したら、リハビリ期に入っていきます。実際には解毒期とリハビリ期には明確な区別はありませんので、体の治療と生活面のリハビリは並行して行われます。
治療はアルコール依存症という病気を的確に理解することが治療の土台となります。医師の話す正しい情報にそって、依存症に対する考え方や感情を整理します。
病気と向き合い、たとえつらくても自分の現状を認識することで、適切な対応がとれるようになっていきます。依存症者も家族も否認しがちなアルコール依存症という病気にとって、心理教育は、治療過程における必要不可欠なステップの一つです。
治療の中心は集団精神療法
リハビリ期には精神療法を受け、飲酒に対する考え方を見直します。この時期の集団精神療法が、アルコール依存症治療全体の中心的な役割を果たします。
集団精神療法は、主に医療機関で行われています。治療者一人と患者さん数人が集まり、飲酒を中心としたさまざまなテーマで話し合いをします。話をする中で、酒に対する考え方を理解することができます。
精神療法を受けると、飲酒や人生に対する考え方が少しずつ変わっていきます。集団精神療法には、仲間との一体感が得られるという特徴があります。
また、医療機関にとっては、多くの患者さんに一度に治療環境を提供できるというメリットがあります。そのため、依存症治療の中心となっています。患者さんは、仲間が努力している姿をみることで、自分も頑張ろうという気持ちになります。
個人精神療法
個人精神療法は、集団精神療法と並行します。患者の個々の事情に合わせたアドヴァイスなどが行われます。個人精神療法と集団精神療法には、それぞれに長所と短所があります。
個人で治療を受けると、心の奥底でからまり合っている複雑な問題に対処することができます。これは繊細な対応となるぶん時間と費用もかかります。
集団での治療は、一般的なテーマで、全員で取り組むため、個人的な問題の解決につながらないこともありますが、時間や費用に負担は比較的軽くなります。集団精神療法を基本としながら、患者さん個々の事情に対して個人精神療法を並行させるのが一般的です。
アフターケア(一生)
リハビリを終え、社会復帰したあともケアを受けます。医療機関や自助グループの支えを受け断酒を続けていきます。
アルコール依存症の再発防止
専門治療を受けて断酒に成功しても、その後、誘惑に負けてしまい、症状が再発することがあります。
治療がどんなに順調に進んでいても、患者さんが酒を一滴でも飲めば、アルコール依存症は再発してしまいます。治療直後でも、治療から数10年経過したあとでも、それは同じです。
アルコール依存症には「再発準備性」があるのです。つねに再発が準備されていて、酒を飲めばそのスイッチが入ります。
原理はわかっていませんが、一度アルコール依存症に陥ると、脳の機能に変化が生じるからではないかといわれています。アフターケアのポイントは、再発しやすい病気だと理解して対応を続けていくことです。
自助グループに参加する
アルコール依存症の当事者同士の集まりを「自助グループ」といいます。お互いを支えあうための集団で、各グループが定期的にミーティングを開いています。
アルコール依存症には代表的な自助グループが2つあり、いずれも全国規模で活動しています。自助グループのミーティングに参加すると、依存症同者や家族の話が聞けます。当事者同士なので相談業務ではありませんが、話合いを通じて気持ちを整理することができます。
自助グループは患者にとって、精神的な支えとなる存在です。自助グループがよりどころになれば、治療を継続する上で重要な役割をはたします。治療の継続が目的となるアフターケアの時期はもちろん、解毒期やリハビリ期にも、体調さえ落ち着けば、自助グループにぜひ参加しましょう。
自助グループは医療機関や福祉機構などと連携をとっています。それらの機関から紹介してもらうと参加しやすいでしょう。
抗酒薬を使う
治療中や治療後の飲酒を防ぐための方法のひとつに抗酒薬があります。抗酒薬は酒を飲むと不快になる状態を作り出す薬のことです。
抗酒薬を服用すると、体内の分解機能が変化します。主な変化は、アルコールによって発生するアセトアルデヒドが分解できなくなること。それによって、酒を飲むと気持ちが悪くなるという状態をつくり酒がのめない体にします。しかし、効果は一時的なものです。
抗酒薬は、アルコール依存症を治す薬ではありません。再発予防薬の一環といて、補助的に活用する薬です。治療中や治療後の飲酒を防ぎ、再発を予防することが抗酒薬服用の目的です。
家族は家族教室などに参加する
家族教室とは依存症の家族が依存症対応の考え方や具体的な方法を学ぶ場です。
医師や臨終心理士などの専門家が、家族向けにさまざまなテーマで話しをします。医療機関や福祉機関などが教室を開いています。相談の際に、医師やスタッフから家族教室を紹介されるのが一般的です。
家族教室は、治療ではなく教育や交流の場です。治療効果は保障されません。しかし、家族にとっては心身を回復させるための助けになります。
アルコール依存症に関する悩み事は、親戚や親しい友人にも言い出しにくいものです。多くの場合、家族は内輪で悩みを抱え込んでいます。
外部の専門家にも相談せず、家族だけで対応していても、状況はなかなか改善しません。家族は本人の言動を責めたり、被害者意識をつのらせたりします。
そのような状況のとき。家族教室に参加すれば、飲酒問題への対応を見直すことができます。日々の苦労に共感してくれる仲間も見つかります。家族教室は家族にとって癒しの場となるのです。
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